仙台高等裁判所 平成5年(ネ)90号 判決 1993年12月27日
控訴人
菅原利昭
右訴訟代理人弁護士
濱野邦
被控訴人
株式会社オリエントコーポレーション
右代表者代表取締役
阿部喜夫
右訴訟代理人弁護士
渡部修
主文
原判決を取り消す。
本件を仙台地方裁判所に差し戻す。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 当事者の主張
一 被控訴人の請求原因
1 被控訴人は、割賦購入あっせんを目的とする会社である。
2 被控訴人は、平成三年五月一三日、控訴人との間で次の要旨の立替払契約を締結した。
(一) 被控訴人は、控訴人が平成三年五月一三日訴外株式会社オートロア仙台(以下「取扱店」という。)から購入した車輌(プレジデント)の代金八八万円を立替払する。
(二) 控訴人は、被控訴人に対し、右立替金八八万円及び手数料金二五万七三七七円の合計金一一三万七三七七円を、別紙支払予定表のとおり支払う。
(三) 控訴人が、右割賦金の支払を怠り、被控訴人から二〇日間以上の相当な期間を定めてその支払を書面で催告されたにもかかわらず、その支払をしないときは、期限の利益を失う。
(四) 遅延損害金は、商事法定利率年六分の割合とする。
3 被控訴人は、平成三年六月三日訴外取扱店に対し、前記代金を立替払した。
4 被控訴人は、控訴人に対し、平成三年八月七日到達の書面で、支払期日の過ぎた割賦金を二〇日以内に支払うよう催告したが、控訴人は支払をしない。
5 よって、被控訴人は控訴人に対し右立替金及び手数料金一一三万七三七七円及びこれに対する期限の利益喪失日の翌日である平成三年八月二八日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 控訴人の主張及び認否
1 本案前の主張
本件訴状及び期日呼出状(以下「本件訴状等」という。)の控訴人に対する送達手続は不適法である。すなわち、本件訴状等は、平成三年一二月一八日に控訴人方に送達され、同居者である秋山ソメコが受領したことになっているが、同人は、従前から血圧が高く通院治療を受けており、ここ数年来、医師から投与される血圧の薬、睡眠薬等七、八種類の薬を服用するほか、頭痛薬、胃腸薬等をも乱用し、炊事、洗濯はするが、新聞は読まず、手紙が来ても見ないばかりか、新聞、手紙類を見付けるとゴミと一緒に捨ててしまい、買物も金を持っているだけ買ってしまい、最近は他人に頼んで買物をしてもらっている状態で、本件訴状等は全く念頭になく、訴状等の送達を受くべき事理弁識能力を著しく欠いている。
なお、原判決正本について、平成四年三月四日同様に秋山ソメコがこれを受領したが、控訴人は右判決のあったことを全く知らなかった。本件では、控訴期間を遵守することができなかったことにつき責に帰すことができない事由があり、控訴人は右事由の止んだ平成五年三月五日から所定期間内に本件控訴の申立てをした。
2 請求原因に対する認否
(一) 請求原因1の事実は認める。
(二) 同2の事実は否認する。
(三) 同3の事実は知らない。
(四) 同4の事実中、控訴人が支払をしないことは認めるが、その余は否認する。
第三 証拠関係<省略>
理由
一1 本件記録によれば、被控訴人から平成三年一二月三日控訴人に対し訴訟提起がなされ、原審は、平成三年一二月一六日に本件の第一回口頭弁論期日を平成四年一月三〇日午後一時一五分と指定して、右期日においては、控訴人不出頭のまま被控訴人に訴状を陳述させたうえ、直ちに口頭弁論を終結して、判決言渡期日を平成四年三月二日午後一時一五分と指定し、同期日に当事者双方不出頭のまま原判決を言い渡したことが明らかである。
2 本件における送達関係をみるに、本件記録中の石巻郵便局配達担当者五十嵐守正作成の平成三年一二月一八日付け及び平成四年三月四日付け各郵便送達報告書によれば、本件訴状等は郵便による送達の形式で平成三年一二月一八日控訴人の肩書住所地に送付され、秋山ソメコがこれを受領し、その報告書には受領欄に秋山ソメコが指印をして配達担当者が同居者菅原そめ子の氏名を記載したこと、原判決正本についても、同様に郵便による送達の形式で平成四年一二月一八日同所に送付され、秋山ソメコがこれを受領し、その報告書には受領欄に秋山ソメコが「菅原」の押印をして配達担当者が同居者菅原そめ子の氏名を記載したことが認められる。
しかしながら、<書証番号略>、当審証人秋山ソメコの証言及び当審における控訴人本人尋問の結果に弁論の全趣旨によれば、秋山ソメコと控訴人とは二軒長屋の各戸に居住し互いに生活上の援助をしている関係にあるものの、内縁関係等はなく世帯も別であること、秋山ソメコは、従前から高血圧症で通院治療を受け、医師から投与される薬を多量に服用するなどして、医師から「高血圧症、健忘症」の診断を受けていること、また同女は、五、六年前から精神的に異常な行動をも示すようになり、身内の者から精神科医師の診察を勧められていたほか、日頃から新聞等は読まず、手紙が来ても見ないばかりか、新聞、手紙類を見付けるとゴミと一緒に捨てる性癖を有し、本件訴状等及び原判決正本の受領を控訴人に告げたことも、これらを控訴人に手渡し又は控訴人においてその送達を知り得る状態で保管するなどのこともなかったこと、そして、当裁判所の尋問に対しても十分な応答ができないことが認められる。
別紙入金明細表
回
入金日
入金額
0
以下
余白
合計
0
別紙支払予定表
回
約定支払日
約定支払額
1
3.6.27
34,877
2
3.7.27
31,500
3
3.8.27
31,500
4
3.9.27
31,500
5
3.10.27
31,500
6
3.11.27
31,500
7
3.12.27
31,500
8
4.1.27
31,500
9
4.2.27
31,500
10
4.3.27
31,500
11
4.4.27
31,500
12
4.5.27
31,500
13
4.6.27
31,500
14
4.7.27
31,500
15
4.8.27
31,500
16
4.9.27
31,500
17
4.10.27
31,500
18
4.11.27
31,500
19
4.12.27
31,500
20
5.1.27
31,500
21
5.2.27
31,500
22
5.3.27
31,500
23
5.4.27
31,500
24
5.5.27
31,500
25
5.6.27
31,500
26
5.7.27
31,500
27
5.8.27
31,500
28
5.9.27
31,500
29
5.10.27
31,500
30
5.11.27
31,500
31
5.12.27
31,500
32
6.1.27
31,500
33
6.2.27
31,500
34
6.3.27
31,500
35
6.4.27
31,500
36
6.5.27
31,500
以下
余白
合計
1,137,377
二右事実によれば、秋山ソメコは、民訴法一七一条の補充送達を受くべき控訴人の「同居者」と言えるかは疑わしく、また、書類送達を受けるにつき事理を弁識するに足るべき知能を具うる者ということもできない。
したがって、まず、本件控訴の適否について検討するに、原判決正本が前記のように秋山ソメコに送付されたとしても、結局、控訴人に対し原判決正本の有効な補充送達がなされたものということはできず、本件記録によるも、他に原判決正本が控訴人に送達されたことを認めるべき証拠はないから、控訴期間の経過はなく、控訴人の本件控訴は適法というべきである。
次に、原審における訴訟手続の適否について判断するに、右のとおり原審における本件訴状等の補充送達は無効であり、控訴人に対して本件訴状等が有効に送達されたものということができないから、結局、原審の訴訟手続は法律に違背するものといわざるを得ない。
三よって、民訴法三八七条、三八九条一項を適用して、原判決を取り消したうえ、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官豊島利夫 裁判官永田誠一 裁判官菅原崇)